35.どこまで行っても、行けば行くほど独学

私は、数年前に2年間ほどジャズピアノのレッスンを受けていました。 それ以前の私は、ず~っと一人で教則本だけを頼りに練習していました。

テンションコード、スケール、理論などを覚えたり、マイナスワン(ピアノパートが入っていないカラオケみたいなもの)やリズムマシンに合わせて、テーマとかアドリブを弾いたりなど、一人黙々と練習をしていました。 上級者とまではいかないくても、中級者くらいの実力はあるんじゃないの~なんて、うぬぼれたりもしていました。 しかし結局は、行き詰ってしまうのです。

あるいは、教則本による独学の限界に到達してしまったのかもしれません。 本当に、この練習方法でいいのだろうか?とか、もっと良い練習方法があるんじゃないのか?とか。 極端な話し、今まで練習してきたことは、すべてムダなことじゃないの?なんて。

そうなってくると、何冊かある教則本の些細な違いさえ、誤植なのか、それとも著者の見識の違いなのか、すご~く気になってしまいます。 その不安がピークに達し、意を決して「無料体験レッスン」を受けてみることにしました。

そのレッスン室には、アップライトピアノとエレクトーンが並べて置かれていました。 先生は、私よりず~っと年配の女性で、いかにも音楽の先生って感じの方です。

いきなり、「Fly me to the moon.」の楽譜を渡され、これを弾きましょうって。 そのピアノ譜は、ざっと見たところ、音符も少なく、テンションなんかも全く使っていません。 どうやらレッスンは、楽譜どおりに弾くことだけをするようです。 なんだかわからないけど絶対これは違います。 私の目指すものは、こんなんじゃありません。

納得できない私は、他のところの「無料体験レッスン」も受けてみることにしました。

そのレッスン室には、グランドピアノとボタンやスイッチのたくさんあるデジタルピアノが置いてあります。 今度は、私より若い女性の先生です。

「じゃ~弾いてみてください」「なんでもいいですよ~」って調子で。 「Days of wine and roses.」俗に「酒バラ」なんていいますが、今思うと、なんでこれ弾いちゃったんでしょうか。 もっと好きな曲とかいっぱいあったのに。例えば、「My foolish heart.」とか。

私は、グランドピアノの前に座り弾きはじめました。 すると先生は、横にあるデジタルピアノのスイッチを押し、ベースの音にして私のピアノに合わせてくれます。 それは、ジャズのCDで聴くような、ベーシストが弾く本格的なウォーキングベースです。 しかも、このデジタルピアノはリズムマシンの機能もあって、ドラムのリズムまで刻んでいます。 本当に、最近のデジタルピアノはすごいです。 ちょうど、ピアノトリオ(ピアノ、ベース、ドラム)で演奏しているような錯覚に陥ります。

こっこっこれです。これですよ~。私の探し求めていたものは、これだったのです。 完成度の低い「酒バラ」を、弾き終えるころには、レッスンを受けることを決めていました。

「まあまあじゃないですか~」なんて、かなりのお世辞だってことは、私が一番わかっています。 私は、今までどのように練習をしてきたのかを説明しました。 そう、練習方法が間違っていなかったかどうかが、一番聞きたかったことなのです。 でも、どうやら私は、それほど間違っていなかったようです。

「レッスンはどんな曲がいいですか~」「なんでもいいですよ~」「さっきの酒バラでもいいですし~」 それじゃ最初は「Autumn leaves.」(枯葉)でお願いいたします。 と言う訳で翌週からレッスンが始まりました。

レッスンは、こんな感じで行われます。 テーマを弾いて、ピアノソロ(アドリブ)を2コーラス、先生がベースのソロ2コーラス(その間、私はピアノでバッキング)です。

ひととおり曲を弾き終わった後は、今の演奏の評価と、ピアノでの模範演奏です。 「ここは、こんな感じの方が」とか「こんな感じも面白いですし」とか、いろいろなパターンを演奏してもらえます。 模範演奏なのに、だんだんと夢中になって、「これでもか、これでもか」って、最後はすごいことになります。 先生は、それほど有名なジャズピアニストではありませんが、よくライブハウスなどで演奏しているそうです。 やはり、プロの演奏はすごいの一言です。

「それでは、もう一度、さっきとは違う感じに弾いてください。」って、先生のすごい模範演奏の後で、ものすごくショボい私のピアノソロが引き立ちます。 しかも、私は先ほどの演奏で用意してきた全てのフレーズを使い切っているので「違う感じ」なんて、そんなことできるわけありません。 それでも、無理をして、適当に、その場しのぎのダラダラとしたアドリブフレーズを弾かなければならないのは、本当に辛いものです。

そう、先生と私の違いは、この「引き出し」の数にあったのです。 私が2コとか3コしかないのに、先生は軽く100コ以上はあります。

レッスンは、月に3回程度でしたが、フレーズやコードなど、いろいろと工夫しているとアッという間にレッスンの日は来てしまいます。 そうこうしている間に、2年はアッという間に過ぎていきました。 最後は辛くなってしまって、長期のお休みってことにしていただきました。

しかし、この貴重な2年間のレッスンで、いろいろなことが分かりました。 今までの練習方法が間違っていなかったこと。 今後、どのように練習していけばいいのか。 ジャズピアノは、教わるものではなく、自分で工夫していくしかないこと。 そして、私は中級者どころか、ジャズピアノの入口から2、3歩入ったばかりの初心者だったということ。

結局、ジャズピアノってどこまで行っても独学というか、行けば行くほど独学なのです。

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