1.一週間で何ができるの?

それでは、私が受けていたレッスンの内容をこと細かくお話いたしましょう。

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レッスンは、月に3回で、1つの曲を2~3ヶ月かけて練習します。

その曲というのは、当然ジャズのスタンダードナンバーで、どうやって決めるかというと。 先生が「マイワン(My One And Only Love)なんてどうですか?」のように言っていただくこともありますし。 私が、「ユビソ(You'd Be So Nice To Come Home To)で、お願いします」なんてこともありました。 「じゃ~来週からその曲で」といった調子です。

レッスンは、あいさつもそこそこに、いきなりの演奏から始まります。 私はグランドピアノを弾き、先生はデジタルピアノをベースの音にして弾きます。 このデジタルピアノから出るドラムの音はかなりリアルで、ベースはウッドベースの音そのものです。 いつも私が家で練習しているマイナスワン(ピアノの入っていないカラオケのようなもの)のCDとは比べ物にならないほどの臨場感と緊迫感です。

演奏は、ジャズの一般的な形式で行います。 まずテーマ(その曲のオリジナルのメロディ)、そしてピアノソロ(アドリブ)を2~3コーラス、次にベースソロ(アドリブ)を2~3コーラス、最後にもう一度テーマを弾いて終わりです。 曲によっては、イントロやエンディングなどを付けることもあります。 先生が弾く、本物のベーシストのような華麗なベースソロのアドリブの間、私はバッキングをします。 まさに、ピアノトリオのセッションそのものです。

ジャズは、こういうのを、何の打ち合わせも無しに、いきなりできてしまうのです。

演奏の始まりは、ルバート(テーマを、ピアノだけで少しゆっくりと気持ちを込めて弾くヤツ)から入るのもあります。 この場合、テーマの終わり近くになって、ドラムとベースが入ってきます。 しかし、私の「ワン・ツー・スリー・フォー」のカウントで同時に入る曲も多かったように思います。

演奏が終わると、評価って程ではありませんが、「なかなか良かったじゃないですか」とか「もう少しですね」なんて感想をいただけます。 でも、全然ダメだってことは、弾いている本人が一番わかっているのです。 そんな落ち込んでいる私に、さらに追い打ちをかけないというのは、先生の優しさなのでしょう。

と、思っているのも束の間、「それじゃ、もう一度」、「もっと鍵盤を広く使って」、「さっきと違う感じで」って、もう充分に追い込んでいただけるのでした。 レッスンなので、「はい、お願いします」という選択肢以外はありません。 一週間かけて作ってきたアドリブフレーズを、全て出し尽くした私は、さらに出来の悪い演奏を披露することになります。

1回のレッスンで3回ほど、この地獄のジャムセッションは行われます。 これは私より、先生にとっての、という意味です。 私の超下手くそなアドリブを長々と聴かされるわけですから。

そんな重苦しい雰囲気も、先生の模範演奏が消し去ってくれます。 「この曲は、こんな感じに弾いても面白いし、こんなのも良いかもしれません」のように説明しながら、次から次へと無限に珠玉のアドリブフレーズが湧き出してきます。 このグランドピアノって、さっき私が弾いていたのと同じピアノなの?っていうくらい音や響きまでも違って聴こえます。

だいたい2~3ヶ月かけて1つの曲だけを練習しますが、納得のできる演奏なんてできるようになったことなど一度もありません。 でも、同じ曲ばかりでは飽きてくるので、先生が「違う曲もやってみましょうか」ということになります。

ほぼ毎週のように迫り来るレッスンの日までに、なんとかアドリブフレーズを作り込んで、それなりの形にしなくてはなりません。 本当に、1週間なんてアッという間です。 そして、気が付けば2年以上の月日が経っていました。

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今回は、ここまでにしましょう。

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