3.余裕があれば楽しめたのかも

前回の中ほどで、まとめるチャンスを逸してしまいました。 途中で、いろいろなことを、たくさん想い出してしまったのですから仕方のないことです。 そろそろ、自然な成り行きでまとめられるのではという淡い期待で、今回も始めましょう。

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ある日、グランドピアノの上に手書きの楽譜が置いてありました。 それは、2段のピアノ譜で、アドリブフレーズや左手のコードまで、細かく書き込まれていました。 私がそれを見ていることに気が付いた先生は、「これは今度、発表会で弾く生徒さんのために書いているところなの」と言いながら片づけてしまいました。 「アドリブまで書いてあげるんですか?」というか、書いてもらったら、それはもうアドリブじゃないじゃん。 と思いながらも、アドリブを書いてもらえることに、少しだけうらやましさを感じました。

「参加してもらえると、発表会のレベルも上がって助かるんだけど」という、先生のお誘いも、仕事を口実に毎回断り続けてしまいました。 今思えば、一度くらい参加しても良かったかもしれません。

そうそう、突然、「私のレッスンって、きびしいですか?」って訊かれたことがありました。 「いいえ、どちらかと言えば、優し過ぎると思います」って答えたのですが、どういう意味だったのでしょうか。 もしかすると、他の生徒さんから、何か言われたのでしょうか。

どうやらレッスンには、いろいろな生徒さんが来ているようです。 ピアノを弾いたこともない人とか。 クラシックをやってきたので、ピアノは弾けるけど、コードを全然知らない人とか。 先生並みに、ものすごく上手な人とか。 ピアノ以外に、ベースも習っている人とか。 その他にも、年齢もさまざまな、いろいろなスキルや経験を持った、一癖も二癖もある生徒さんがいるようです。 それぞれの生徒さんに合ったレッスンをしなくちゃいけないなんて、さぞかしストレスも溜まることでしょう。

だから、「この前、体験レッスンに来た人なんだけど、年配の男の人で、ず~っと難しい理論的な話ばかりしていて、なかなか弾かないのよ。で、やっと弾いたと思ったら、ものすご~く下手だったの」なんて、たまには愚痴も言いたくなりますよね。

そういう話を聞くと、「私って手間の掛からない生徒なのかも?」って思っちゃいました。

ジャズピアノに説明なんていりません。 演奏がすべてであり、名刺代わりなのです。 体験レッスンのときに、「それじゃ、弾いてみましょうか。なんでもいいですよ」って促されて弾いてしまった出来の悪い「酒バラ」が私の実力なのです。 でも、もったいぶらずにすぐに弾いてよかったですよ。

今、急に思い出したのですが、こんなこともありました。 私が演奏している最中に、先生がいきなり「倍テン」を入れてきたのです。 倍のテンポってことなのですが、「ダブルタイム」なんていう呼び方もあります。 これは、通常の4ビートを、演奏の途中で8ビートにしてしまうことなのです。 実際は、倍のスピードで演奏するっていうわけではなくて、今まで1小節に4つ打っていたリズムを、8つ打つというだけのことなのです。 でも、この切り替わったときの、何とも言えないスピード感のカッコ良さはただごとではありません。 そして、しばらく演奏したのち、4ビートに戻るのですが、その安堵感みたいなものもなかなか良いのです。

もし、こういうのがあることを知らなかったなら、慌てて何もできなかったかもしれません。 しかし、私はジャズのCDを聴いて知っていました。 実際には、このような練習をしたことがなかった(というか、マイナスワンではできない)ので、心の中では「おおおお~、これがアレなのか~」って感じでした。 しかも、なぜか奇跡的にうまく対応できてしまったのです。

先生を見ると「このくらいは知ってるのね」って顔してるじゃないです。 そう、試されたのです。 いや、今思えば、これだけではなかったのかもしれません。 よく、ジャズのセッションは、「会話」とか「バトル」に例えられます。 私がもう少し上手で、自分が弾くアドリブフレーズ以外にも、気を配る余裕があったなら、もっと楽しめたのかもしれません。

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さて、次回こそは大団円に持っていけるかどうか。 私の思い出が尽きるのが早いか、飽きてしまうのが早いかの勝負?です。 もうなんだかよくわかりません。

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